BL小説の感想を書き留めています。
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欲望の犬
【欲望の犬】
中原一也 / 奈良千春
(f-ラピス文庫)




このまま喉笛に噛みつかれ、息の根をとめられてもいい――

そんな被虐的な気持ちが湧き上がり、ますます息があがる。

殺して。

無意識にそう願い、切なげに吐息を漏らしながら縋りついた。




(あらすじ)
地方検事の水上は、雨の中拾ってきた哲哉と獣じみたセックスをしてしまい、そのまま家に居着かれてしまう。愛されていると錯覚するほど水上を欲しがって抱くくせに、いくら躰を繋げても哲哉は素性を明かそうとしなくて、水上は自分だけが振り回されている気がしてならない。以前会ったことがあると仄めかされても、詳しくなるの躰のことばかり。偶然哲哉が人気上昇中のモデルだとわかり、水上は行きずりの関係を思い知らされて―。


中原 一也, 奈良 千春 / プランタン出版
Amazonランキング:2193位
Amazonおすすめ度:



(一言感想)
「欲望の犬」というタイトルだけを見たら、えらいごとスゴそうなお話なんですけれども。でも、読んでみたら意外とそんなにコワいお話じゃなかったです。むしろ「乙女」なお話でした。

主人公の水上は地方検事。その設定だけで、なんか、こう、ヤクザが出てきたりとか、恐ろしい陰謀に巻き込まれたりとか、そういうのを想像しがちですが、この物語は主人公がたまたま地方検事というお堅いお仕事をしているだけで、お話の内容自体は主人公が不思議な出会い方をした年下の男と恋に墜ちる過程を描いた、純粋な恋愛小説です。

ネタばれありの感想は以下です〜



読んでいて、つくづく感じたんですけれども、この主人公の水上という男は、本当に寂しい人生を送ってきたんだろうな、と。もちろん恋愛だけが人生じゃないからですね、幸せな恋愛をしてこなかったからと言って、それが一概に不幸だとは言わないんですが。でも、それでも私は水上に問い質したい気持ちで一杯です。

「ねぇ?人生で一番甘酸っぱい高校時代、好きになった人とかいなかったの?」

「それに、大学時代!人生で唯一「やんちゃ」することを許されている時期に、アンタ一体、何やってたの?」

水上がどういった「きっかけ」で、またどういった時期に「男しか愛せない」という自分の性癖を自覚したのか、というのは本編中にも記述がないので、あくまで想像の域なのですが。でも一般的に、人が恋を自覚する過程に於いて必ず過去の恋愛を顧みると思うんですよ。

ところが水上が思い出すのは「エリートと呼ばれる紳士たち」と「スーツを着て、ホテルのレストランで食事をして」そして「ホテルの快適なベッドでお行儀の良いセックスをする」ということだけなんですよね。

ってか、それって「恋人」じゃないでしょう?そういうの世間では「セフレ」って言うんだってば!

そんな中で、唯一別格だった先輩検事である幸田との恋ですら、ホテルの部屋での情事の後「自分は結婚する」という幸田の一言であっけなく終わるくらいです。恋人に突然そんなことを切り出されて、取り乱しもせず、彼を詰ることも、縋ることもせずに聞き分けよく「幸せになってください」だなんて言える関係は「恋」じゃないですよねえ?

だから、水上は本当の恋をしたことがないんです。

で、こんな男にひっかかっちゃう(笑)

いくら雨の中、自分が事故に遭いそうになった所を助けてもらったからと言って、見ず知らずの行きずりの男を自分の部屋に上がらせて、服を洗濯してあげたり、食事を食べさせてみたり、挙句の果てには自分まで食べられちゃったり(えー?!)しかも、自分を検事だということまで知られているのに、うっかりマンションの合鍵まで渡してしまう。

ヲイヲイ!

水上が拾った男が、たまたま大貫みたいないい子(だよね?一応『犬』だし/笑)だったからいいものの、一歩間違ったら大火傷ですよ。水上は無防備過ぎます!誰か水上に説教してやって!(懇願)

突っ込みどころ満載の水上ですが、でも大貫に恋をしてしまう彼はとても可愛らしかったです。28歳の大人の男性に向かって「可愛い」はないと思いますが、何度もセックスしている相手と「昼間にデートをする」ということだけで、何を着ていくか迷いに迷った挙句、どうしていいのか分からなくなっちゃって、思い余って普段の仕事着であるスーツとアタッシュケースで出かけてしまう、そんな水上の混乱っぷりが微笑ましい。

年下の恋人に洋服を見立ててもらって「若作りし過ぎ」と恥ずかしがってみたり、チンピラにからまれた自分を助けてくれるカッコよさに見とれてみたり、人気の少ない映画館でフランスの恋愛映画を見ながらイチャイチャしてみたり、そんなこと一つ一つに胸をときめかせる水上はまさしく「乙女」

本当に水上は寂しかったんだなぁ、と。

別にそんな普通の恋人同士みたいなこと、拘らない人はしなくていいと思うけど。でも、それをこんなにまで喜んでしまう水上が、今まで「それ」を与えられることもなく、また「それ」を「自分は男しか愛せない人間だから」と最初から諦めていたということが、寂しいというか、やりきれないというか。

諦めてたけど、ホントは、ずっとこういうことに憧れていたんだよね(乙女だからさ)

物語の後半は元恋人の幸田が「やっぱり水上が忘れられなかった」と言い、妻と離婚するから、と水上に復縁を迫ったり、自分のことを語りたがらない大貫との間で溝ができてしまい、気持ちがすれ違ってしまったりで、水上にとっては、ちょっと大変な展開になるのですが。

でも、ホラ、こういう揉め事も恋愛の醍醐味だから。

今までこんな恋愛に関わるアレコレと無縁だった水上は、今更と言えば今更なんですが(だって、もう28歳ですから)でも、これから色々なことを知っていけばいいと思うし、その中で、もっと大貫とも分かり合えばいいと思いました。

続編があるなら、無事に司法試験に合格して新米検事になった大貫とベテラン先輩検事の幸田がお姫様検事の水上を争うという、そんな泥沼の三角関係希望です。幸田検事…、カッコ良くて、よく気がついて、で、仕事もバリバリできる元恋人とくれば「当て馬」としては申し分ない存在ですから、ここは一つ頑張って二人の仲をひっかき回して欲しいと願ってやみません(←当て馬スキー)

中原一也さんと言えば「オヤジ」というイメージがあったんですけれども、こういうお話も面白いなぁ、と思いました。こういう恋愛に振り回される大人のお話、大好き。
中原一也 comments(2) trackbacks(0)
Comment








こちらのサイト様のコメントは、いつもいつも「うんうん!そう!そうよね!」とうなずくことしきりなんですが、水上についてのアレコレには、激しく激しくうなずいてしまいました。
「誰か水上に説教してやって!(懇願)」には、笑かしてもらいました。
しかし、水上はふんとにもー(笑)。

私も「ちゃっかり合格」した大貫と水上のその後を読んでみたいですねえ(でも検事って転勤族なんですよねえ・・・)

PS:年末にまとめてらした2006年度のベスト10作品、どれもこれもみなとても面白かったです!年末年始にまとめて読ませてもらいました。良かったです〜。とりこぼしていたものも多かったので、面白いものを見逃さずにすんでとっても嬉しいです♪ありがとうございました。
from. りんどう | |
りんどうさんへ

はじめまして〜!いやあ、ホントに面白い作品でした。こういう不器用な乙女受…大好きなんですよ(笑)大好きなので、ついつい説教したくなっちゃう(えー?!)

>水上はふんとにもー(笑)

そうそう!そんな感じで!

続編、是非読んでみたいんですが、りんどうさんのおっしゃる通り、検事さんって転勤族なんですよね?大貫…、なんとしてでも水上について行きそうでコワいです。でも応援してあげたいなぁ…。

年末のベスト10はとても楽しみながら選びました。もし、気に入っていただける作品があったのでしたら、大変嬉しいです〜!りんどうさんはどの作品がお気に入りなのでしょうか?また聞かせていただけると嬉しいな。

コメントありがとうございました!また遊びにいらしてくださいねv
from. suzuya | |
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